| ちょっとためになるおしりの話 |
浜松市・女性専門の大腸肛門科/女医が解説
産後の痔は、
「そのうち治る」とは限りません。
出産で痔になる方は非常に多く、育児に追われるうちに何か月も我慢してしまいがちです。いつまで続くのか、授乳中でも薬は使えるのか、いつから受診できるのか。産後の痔について、専門医の立場からお答えします。
この記事のまとめ
- 産後の痔は、妊娠中のうっ血に分娩時のいきみが重なって起こります
- 軽いものは産後1〜3か月ほどで落ち着くことが多い一方、飛び出したまま戻らないものは自然には治りません
- 授乳を続けたまま治療できる場合がほとんどです
- おならや便がもれる場合は、痔ではなく骨盤底筋のダメージが原因のことがあります
なぜ出産で痔になるのか
妊娠中にすでに「土台」ができている
妊娠中は、大きくなった子宮が骨盤内の静脈を圧迫し、肛門のまわりに血液がたまりやすい状態が続いています。加えて黄体ホルモンの影響で便秘になりやすく、いきむ回数も増えます。出産を迎える時点で、肛門はすでに負担のかかった状態にあります。
分娩時のいきみが決定打になる
分娩では、それまで経験したことのない強さで長時間いきみます。この圧力で、うっ血していた肛門のクッションが一気に押し出され、いぼ痔が脱出します。「産んだ直後からおしりに何か触れる」というのは、この状態です。
産後の便秘が追い打ちをかける
産後は、授乳による水分不足、睡眠不足、食事のタイミングの乱れ、そして「傷が痛くていきめない」ことが重なって便秘になりがちです。硬い便を無理に出すことで切れ痔が加わり、痛みでさらに排便を我慢する、という悪循環に入ります。
産後に痔になる人は、どのくらいいるのでしょうか
妊娠中から産後にかけておしりのトラブルを経験する方は8割以上にのぼるという報告があります。つまり、産後に痔で悩むことは例外ではなく、むしろ多数派です。体質や我慢が足りなかったせいではありません。
そもそも痔って、何でしょうか?
いぼ痔、正式には痔核といいます。痔核とは、肛門付近の静脈の膨らみが大きくなり、更に肛門周りの支えが緩むことで外に飛び出すようになるものです。つまり、痔は、誰しもが持つ構造が大きくなって、症状が出現したものです。
人間特有の病気になったのは
人間が二本足で歩くようになり(直立二足歩行)、心臓より肛門の位置が低くなって肛門に血液がうっ血しやすくなったこと、排便時の強いいきみ、重い荷物を持つ仕事、筋トレで腹圧がかかる、長時間の座り仕事、アルコールの多飲、トウガラシなどの辛いものの多食、お尻を冷やすなどが原因として考えられています。つまり、犬や猫など、4足動物は痔にはならないのです!人間特有の病気ですね。
妊娠出産は、お尻のトラブルにも注意
人間なら誰しもなり得る痔核ですが、妊娠出産は、お尻にとってはあまり有利な状態ではありません。妊娠すると、まずは黄体ホルモンという女性ホルモンが優位になります。このホルモンは妊娠を維持するために、とても大事なホルモンですが、このホルモンの影響で、腸管の動きが悪くなり、便秘が悪化することが多いです。更に、妊娠中期以降になると、今度は子宮が大きくなり、腸を圧迫したり、また、直腸から肛門付近の血流を悪化させ、肛門周りの血流がうっ滞しやすくなるため、痔が悪化しやすいです。出産が終わっっても、すぐには妊娠前と同様の血流状態に戻らないので、痔が悪化した状態が長引きやすく、さらには授乳の影響で便秘が悪化したり、また、産後の疲れもお尻にはつらい状況ですね。
以上のように、妊娠出産はお尻のトラブルを抱えやすいときです。
産後の痔はいつまで続く?
もっとも多いご質問です。目安は次のとおりです。
| 軽いいぼ痔・切れ痔 | 排便を整えて外用薬を使えば、産後1〜3か月ほどで落ち着くことが多いです。 |
| 血栓性外痔核 | 硬いしこりと強い痛みが特徴です。血のかたまりが吸収されるまで2〜4週間ほどかかります。早く処置するほど、痛む期間は短くなります。 |
| 脱出したまま戻らないいぼ痔 | 自然には元に戻りません。放置しても小さくならず、排便のたびに悪化します。治療の対象になります。 |
| 繰り返す切れ痔 | 治りかけては切れるを繰り返すと、傷が硬くなり肛門が狭くなることがあります。そうなる前の手当てが大切です。 |
「1年たっても治らない」というご相談も少なくありません。その多くは、自然に治るタイプではなかったというだけのことです。時間をかけたから治るというものではないので、3か月たっても変わらないなら一度診てもらってください。
授乳中でも薬は使えますか?
はい、授乳を続けながら治療できる場合がほとんどです。当院の基本的な考え方は次の3つです。
- 市販の内服薬を自己判断で使うことは避けていただく
- 患部に直接はたらく外用薬を第一の選択とする
- 薬と並行して、便秘・下痢を整える排便コントロールを行う
3つめが抜けていると、薬だけでは良くなりません。ここが治療の土台になります。
外用薬(塗り薬・坐薬)
授乳中の治療の中心になります。炎症や痛みを抑えるステロイドを含む軟膏・坐薬は、期間を限って使う範囲であれば、授乳を続けながら使用できるとされています。刺激の少ない非ステロイドの軟膏や、肛門の内側に直接使う注入軟膏もあり、症状の場所と強さによって使い分けます。
内服薬
便をやわらかくする緩下剤は、授乳中も使いやすいお薬です。便が硬いままだと、どんな治療をしても切れ痔を繰り返してしまうため、ここが要になります。ほかに、血流や便通を整える薬を用いることもあります。痛みや腫れが強いときには、消炎鎮痛薬や、静脈のうっ滞を改善する薬を、授乳への影響を考えて必要最小限で処方します。
診察のときに「授乳中です」と最初にお伝えください。それを前提に組み立てます。お薬の効き方や適する種類には個人差がありますので、実際の処方は診察のうえで決定します。
産後いつから受診できますか
からだの回復を待ってからで大丈夫です。出産直後はからだそのものが回復に向かう時期ですので、無理に急ぐ必要はありません。ただし、痛みや出血が強くて日常生活に支障が出ているときは、その時点でご相談ください。
手術が必要な場合はいつ受けますか
手術については、なるべく授乳が終わってからをおすすめしています。麻酔や術後のお薬、通院の負担を考えると、授乳期を過ぎてからのほうがご本人の負担が小さくなるためです。
ただし、症状が強い場合や条件が整う場合には、授乳中に手術を行うこともあります。ご事情はそれぞれ違いますので、まずは診察でご相談ください。
なお、診察を受けることと、手術をするかどうかは別の話です。今どういう状態なのか、このまま様子を見ていいのかを知っておくだけでも、産後の過ごし方は変わります。
赤ちゃんを連れて行っても大丈夫ですか
大丈夫です。お子さまとご一緒にお越しください。
産後の受診をためらう理由でいちばん多いのが、「赤ちゃんを預ける先がない」ことです。当院は患者さまもスタッフも全員が女性ですので、その点を気にせずお越しいただけます。
- ベビーカーのまま院内にお入りいただけます。
- 診察のあいだは、スタッフがお子さまをお預かりするか、診察ベッドにお母さんと一緒に横になるかをお選びいただけます。赤ちゃんとお母さんが安心しやすい方法をご選択ください。
- 授乳やおむつ替えが必要になったときも、遠慮なくお声かけください。
「預ける先がないから」という理由で、ご自身のことを後回しにしないでください。
産後にできる、おしりのセルフケア
- 授乳のたびに水分を取る。母乳で失われる水分が便を硬くします。授乳とセットで飲む習慣にしてください。
- 便意を我慢しない。「今は手が離せない」で先送りすると、便が硬くなって悪循環に入ります。
- いきまない。会陰の傷が痛くて怖い時期ですが、力を入れるほど肛門に血がたまります。出ないときは中断してください。
- おしりを温める。シャワーだけでなく、湯船に入れる時期になったらしっかり温めてください。血流が戻ると痛みが和らぎます。
- 円座に頼りすぎない。長時間の使用はかえって血流を妨げます。短時間の補助として使ってください。
- 抱っこの姿勢に気をつける。前かがみで長時間過ごすと骨盤内がうっ血します。こまめに姿勢を変えてください。
おならや便がもれる場合は、痔ではないかもしれません
「おならが自分の意思と関係なく出る」「下着に便がつく」という症状は、痔ではなく分娩で骨盤底筋が傷んだサインのことがあります。これは時間がたてば治るものではなく、専門的な評価と訓練が必要です。恥ずかしさから相談されないまま何年も過ごしている方が本当に多い症状です。
こんなときは受診してください
- いぼ痔が飛び出したまま戻らない
- 座るのがつらいほど痛い、硬いしこりがある
- 出血が続く、量が増えている
- 産後3か月たっても症状が変わらない
- おなら・便がもれる、下着が汚れる
- 市販薬を使っても良くならない
当院は患者さまもスタッフも全員が女性の大腸肛門科です。「こんなことで受診していいのか」と迷う必要はありません。育児の合間に、ご自身の体のことも診せてください。
▶ 関連ページ:妊娠中・産後のおしりの悩み(診療案内)
よくあるご質問
産後の痔はどのくらいで治りますか?
軽いいぼ痔・切れ痔は、排便を整えて外用薬を使えば、産後1〜3か月ほどで落ち着くことが多いです。一方、脱出したまま戻らないいぼ痔は自然には治りません。3か月たっても変わらない場合は一度診てもらってください。
授乳中でも薬は使えますか?
授乳を続けながら治療できる場合がほとんどです。患部に直接はたらく外用薬(軟膏・坐薬・注入軟膏)を第一の選択とし、便をやわらかくする緩下剤や漢方薬などを組み合わせます。診察のときに「授乳中です」と最初にお伝えください。
産後いつから受診できますか?
からだの回復を待ってからで大丈夫です。無理に急ぐ必要はありませんが、痛みや出血が強くて日常生活に支障が出ているときは、その時点でご相談ください。
赤ちゃんを連れて行っても大丈夫ですか?
大丈夫です。ベビーカーのまま院内にお入りいただけますし、診察のあいだはスタッフがお子さまをお預かりします。当院は患者さまもスタッフも全員が女性ですので、遠慮なくご一緒にお越しください。
手術は授乳中でもできますか?
なるべく授乳が終わってからをおすすめしています。麻酔や術後のお薬、通院の負担を考えてのことです。ただし症状が強い場合や条件が整う場合には、授乳中に行うこともあります。診察でご相談ください。
産後の痔は放置してもいいですか?
軽いものは自然に落ち着きますが、脱出したまま戻らないものや、繰り返す切れ痔は放置すると進みます。切れ痔を繰り返すと傷が硬くなり、肛門が狭くなることもあります。
出産すると必ず痔になるのですか?
必ずではありませんが、妊娠中から産後にかけて痔を経験する方は非常に多いことが報告されています。体質や我慢が足りないせいではありません。
飛び出したまま戻らないのですが、自然に戻りますか?
自然には戻りません。放置しても小さくならず、排便のたびに負担がかかります。治療の対象になりますので、一度ご相談ください。
おならや便がもれるのですが、これも痔ですか?
痔ではなく、分娩で骨盤底筋が傷んだサインのことがあります。時間がたてば治るものではなく、専門的な評価と訓練が必要です。当院で対応しています。
市販薬を使っていますが、続けても大丈夫ですか?
市販の内服薬を自己判断で使い続けることは避けてください。授乳中に使えるかどうかも成分によって変わります。一度診察を受けて、今の状態に合ったお薬に切り替えることをおすすめします。
監修
Aico(あいこ)レディースクリニック 院長 相川 佳子
日本大腸肛門病学会 専門医・指導医・評議員/日本臨床肛門病学会 専門医・指導医/日本外科学会 専門医・指導医
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本記事は一般的な情報提供を目的としており、症状や治療効果には個人差があります。気になる症状がある場合は医師にご相談ください。



























