| ちょっとためになるおしりの話 |
浜松市・女性専門の大腸肛門科/女医が解説
産後のガス漏れ・便もれは、
「そのうち治る」とは限りません。
出産から6か月のあいだに、4人に1人以上がガスや便のもれを経験するという報告があります。恥ずかしさから誰にも言えないまま、何年も過ごしている方が本当に多い症状です。原因と、今できることをご説明します。
この記事のまとめ
- 産後のガス漏れ・便もれは、分娩で肛門括約筋や骨盤底筋が傷んだサインです
- 多くは産後1か月ほどで感覚が戻りますが、それを過ぎても続くなら受診の目安です
- 超音波検査で筋肉が切れているかどうかを確認できます
- 損傷の程度に応じて、トレーニング・HIFU・手術と選択肢があります
出産後の便失禁は、骨盤底筋ダメージのサインかもしれません
前回は、妊娠中・産後のお尻のトラブルを予防する習慣について解説しました。今回は、出産を経験した多くの女性が抱えるデリケートな悩み、産後のガス漏れ・便漏れ(便失禁)に焦点を当てます。
出産直後は「一時的なもの」と自己判断しがちですが、症状が残る場合は専門的な診断と適切な治療が必要です。当院では、女性専門クリニックとして、便漏れやガス漏れの症状(排泄障害)に関する診療を丁寧に行っております。
1. なぜ産後にガス漏れ・便漏れが起こるのか?
出産直後から数週間は、肛門・膣周囲や尿道周囲の触った感じ、あるいは便意や尿意がわかりずらいと感じる方が多くいらっしゃいます。出産は短時間で胎児の大きな頭や体が骨盤内の臓器や周囲の筋肉を押し広げて通過するため、骨盤内組織に少なからずダメージを与えます。このため、一時的に便意や尿意、肛門を締める感覚が鈍くなることがあります。
多くの場合、出産後1ヶ月を経過する間に肛門周囲の感覚は戻ってきます。しかし、出産後1ヶ月を経過しても肛門を締めることが難しい、または便失禁が改善しない場合、主に次の2つの可能性があります。
- 原因その1 肛門括約筋(こうもんかつやくきん)の損傷: 経膣出産時、膣の出口から肛門の方向に裂けてしまうことを分娩時会陰裂傷と呼びます。このうち、第3度または第4度分娩時会陰裂傷では、肛門を締める重要な筋肉である肛門括約筋までが損傷(切断)されてしまいます。通常、発生時には産婦人科医により切れた筋肉の縫合(修復)がなされますが、修復が不十分な場合に便失禁が生じることがあります。
- 原因その2 陰部神経(いんぶしんけい)のダメージ: 肛門の機能を支配する陰部神経が、分娩時間が長引くことにより引き伸ばされ、ダメージが生じることがあります。この神経は骨盤内の仙骨から肛門近くまで伸びており、損傷が生じることで、肛門の筋力や感覚が低下し、便失禁の原因となります。
2. 産後の便失禁はどれくらいの頻度で起こるのか?
海外の報告では、出産から6ヶ月間で4人に1人以上の方がガスや便の漏れを経験していると言われています。これは決して稀な症状ではなく、多くの女性が経験しうるデリケートな健康問題です。
3. いつ専門医を受診するべきか?
出産後1ヶ月を経過しても、便漏れやガス漏れの症状が続くときは、肛門科を専門とする病院を受診しましょう。
専門的な診断のためには、肛門管超音波検査などで肛門括約筋の損傷の有無を正確に確認することが重要です。当院では、超音波検査をはじめとした検査を行うことができます。
4. 産後便失禁の治療法:外科的アプローチとトレーニング
便失禁の治療法は、損傷の程度によって内科的治療と外科的治療が使い分けられます。
【外科的治療】損傷が大きい場合
- 肛門括約筋修復術: 手術によって見た目を改善することが望めますが、手術後長期間が経過すると肛門の収縮能力が低下するとの報告もあります。
- 仙骨神経刺激療法: 排便に作用する神経を刺激することで便失禁を改善させる方法です。手術後長期間経過しても肛門機能を保つと報告されていますが、磁気を使った検査や治療ができない、5年ごとに電池の交換が必要などのデメリットもあります。どちらの手術を選択するかは、主治医と各手術の利点・欠点をよく話し合って決めることが重要です。
【内科的治療】損傷が軽度・または修復後の場合
肛門括約筋が切れていなかった場合や、修復が十分にされているにもかかわらず症状が残る場合は、内科的治療を行います。
- 便の性状調整: 食事や薬(薬物療法)で便の固さを調整し、下痢や軟便になりにくいように便の性状を整えます。便のコントロールは、肛門への負担を減らすために最も重要です。
- 骨盤底筋トレーニング: 肛門括約筋を鍛える筋力トレーニングを行います。骨盤底筋トレーニングは、尿漏れ・便漏れ対策の基本です。トレーニングは、呼吸を止めず、骨盤底筋に集中し、無理せず継続することが改善への近道です。
【当院の新しい可能性】肛門・膣HIFU治療
当院では、内科的治療の一つとして、便漏れ・尿漏れに対するHIFU(ハイフ:高密度焦点式超音波治療)治療を行っています。
HIFUは、超音波エネルギーを深部層まで照射することで、骨盤底筋をはじめとした組織のコラーゲン増生を活性化し、臓器下垂感や尿・便漏れの改善が期待できる最新の施術です。肛門に専用の細めのカートリッジを入れてHIFUを当てることで、肛門括約筋の引き締め効果が期待でき、便失禁の改善を目指します(肛門ハイフ)。
このHIFU治療については、次号で詳しく解説いたします。
5. ご自身でできる改善法:回復期に注意すべきこと
出産直後の1ヶ月間は、ダメージを受けた骨盤底に負担をかけないようにして、回復を待つことが大切です。この時期に無理に肛門を締める体操をする必要はありません。
回復期に意識すべき自己ケアのポイントは以下の通りです。
- 便の調整: 便を硬くならないように調整しましょう(形はあるが軟らかいバナナ状の便が最適です)。水分をしっかり取り、バランスの良い食事を心がけ、必要に応じて便秘薬も活用しましょう。
- 排便時間の短縮: トイレの時間をできるだけ短くし、力まずに息む排便を心がけましょう。
- 骨盤底への負担軽減: 重いものを持ったり、長時間の立ちっぱなしを避けるようにしましょう。
一人で悩まず女医に相談を
産後の便失禁は、適切な診断と治療を行うことで、生活の質(QOL)を大きく向上させることが可能です。
出産後1ヶ月を経過しても症状が続く場合は、自己判断せずに、ぜひ一度WEB予約またはお電話にてご相談ください。
よくあるご質問
産後、おならが自分の意思と関係なく出てしまいます。異常ですか?
めずらしいことではありません。分娩で肛門を締める筋肉や、その感覚をつかさどる神経が一時的に傷んでいるサインです。多くは産後1か月ほどで戻りますが、それを過ぎても続く場合は一度確認しておくことをおすすめします。
産後の便もれは自然に治りますか?
軽いものは、産後1か月ほどのあいだに感覚が戻って落ち着くことが多くあります。ただし肛門括約筋そのものが切れている場合は、待っていても戻りません。「時間がたてば治る」と決めつけないことが大切です。
いつから受診すればいいですか?
出産後1か月を過ぎても、ガス漏れや便もれが続くときが目安です。それより早くても、量が多い・下着が汚れるなど生活に支障が出ているなら、その時点でご相談ください。
肛門がゆるくなった感じがします。元に戻りますか?
締まりの感覚が戻る方は多くいらっしゃいます。ただし筋肉の損傷の有無で見通しが変わりますので、まずは超音波の検査で今の状態を確認するところから始めます。
どんな検査をしますか?痛いですか?
問診で経過をうかがったあと、肛門管超音波検査で括約筋が切れていないかを確認します。おなかのエコーと同じように、超音波の器具を使って調べる検査です。強い痛みをともなうものではありません。
骨盤底筋トレーニングだけで治りますか?
損傷が軽い場合は、トレーニングだけで改善する方もいます。ただし自己流では効かせたい筋肉に力が入っていないことが多く、当院では機器を使った訓練や干渉低周波治療、肛門ハイフなども組み合わせてご提案しています。
何年も前の出産ですが、今からでも治療できますか?
できます。出産から年数がたってからご相談に来られる方は少なくありません。「もう手遅れ」ということはありませんので、あきらめずに一度お聞かせください。
赤ちゃんを連れて受診できますか?
はい。ベビーカーのまま院内にお入りいただけますし、診察のあいだはスタッフがお子さまをお預かりします。「預ける先がないから」という理由で先延ばしにしないでください。
授乳中でも受けられますか?
受けていただけます。検査もトレーニングも授乳に影響しません。お薬を使う場合は、授乳中であることを前提に選びますので、診察の際にお伝えください。
恥ずかしくて相談しづらいのですが。
当院は患者さまもスタッフも全員が女性の大腸肛門科です。この症状で受診をためらう方が多いことは、よくわかっています。お名前ではなく番号でお呼びし、人目に触れにくい導線を用意しています。
▶ 関連コラム:産後の痔はいつまで続く?治し方と授乳中に使える薬 / 妊娠中・産後のおしりの悩み(診療案内)
監修
Aico(あいこ)レディースクリニック 院長 相川 佳子
日本大腸肛門病学会 専門医・指導医・評議員/日本臨床肛門病学会 専門医・指導医/日本女性骨盤底医学会 所属
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本記事は一般的な情報提供を目的としています。症状や治療の効果には個人差がありますので、気になる症状がある場合は医師にご相談ください。
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本記事は一般的な情報提供を目的としており、症状や治療効果には個人差があります。気になる症状がある場合は医師にご相談ください。



























